[0001] 序章

「ジュラン、ジュラン、起きてるの⁉」

階下から、寮母のマルミさんのよく通る甲高い声が聞こえてくる。

今日は…西暦2921年5月26日、だったかな。

人類の大半は、地球外、さらには太陽系外に移住しているので、地球上の人口は、たぶん1億人に満たないぐらい。海上や海底に住む人も多いから、僕達のように地上に住む人はさらに少ない。僕の実家も海底にある。

人口統計は、当然、その気になれば一人一人きっちり取れるんだけど、この時代の人達は、どうもそういう細かいことを気にしない感じで、正確なところは分からない。

僕自身は、どちらかと言えば正確にデータを取りたい方なんだけど、そういう人は少数派。

僕達の住む寮は、直径が10mぐらい、高さが20mぐらいの、中がくりぬかれたような大きな木(杉の一種らしい)の中にある。実際には木をくりぬいてつくられたわけじゃなくて、この木自体、ちゃんと生きてる。枝は伸びるし葉も生える。

こういう建物(と呼ぶのは少し違和感があるのだけれど)の作り方は、いろんな方法があり得るらしいけど、100年以上前に生まれた建物で、覚えてる人もいなければ記録も見当たらないので、どうやって生まれたのか、今となってはよく分からない。ま、ちゃんと立ってるんだから、それでいいじゃん?

恒星間航行は、個人レベルではまだ難しくて、大きい船が時々行き来してる感じ。恒星から恒星へは、数週間から数ヶ月あれば渡れるので、違う恒星系に旅立ったからって、もう決して会えない、というほどではない。気軽に行き来できる距離でもないけどね。

惑星間航行は、一部の人は個人レベルでもやってるし、そんなに難しくはないんだけど、あまり活発じゃない。「だって、火星行こうが宇宙都市に行こうが、地球と大差ないじゃん」というのが、大半の人の考え。

僕も同意見なので、まだ地球から出たことはない。

「いい加減に起きてきなさい!」

マルミさんの声が金切り声になってきたので、もう起きなくちゃ。

もっと文明的な起こし方があるんじゃないか、って思われるかもしれないけれど、これがこの時代の、生活スタイル。人にもよるけどね。

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